アメリカのHamilton(ハミルトン)社製の懐中時計、グレード950になります。
この写真では見えませんが、ムーブメントに刻印されているシリアルナンバーから1926年製(昭和元年!)と分かります。
( https://pocketwatchdatabase.com/ ←こちらのサイトで検索ができます。便利ですな。)
およそ100年前に製作された個体ですが状態はかなり良く、オーバーホールをした後は高い精度でチクタクと時を刻んでくれています。
というか、100年前の物が普通に動くことにまずはビックリですよね。
良い状態で保管されていて、自分の所に来てくれたことに感謝です。
早速、細かく見ていきましょう。
文字盤はポーセリン製(陶製)のダブルサンク(文字盤の中央部が一段落ち込み、さらにスモールセコンド部がもう一段落ち込んでいるもの)仕様。
文字盤外周部と中央部、スモールセコンド部の3パーツを別々に製作し、貼り合わせるという手の込んだものです。
ポーセリンはちょっとしたこと(衝撃等の力はもちろん、温度変化でも)でダメージを受けてしまうのですが、この文字盤には幸運なことにクラックや欠けはありません。
インデックスはアラビア数字で、斜体になっていてちょっとエレガントな雰囲気。
シンプルすぎてなにか物足りないくらい?w
この頃はもう手描きではなくプリント(スタンプ)で大量生産されてますね。
スペード型の青焼き針も状態が良く、作りが細かいです。
まずは短針(時針)。
芯の部分もスペードの膨らんだ部分も平らじゃなく、Rをつけて立体的になってるんですよ。
手間かかってますねぇ。
次に長針(分針)。
針の先端が曲げられています。
文字盤の分目盛りにできるだけ近づけることで、見間違えないようにしているんですね。
もちろん秒針も青焼きです。
そして次は裏蓋側から見てみる!
なんとシースルーバックになってます!
枠の上部に文字盤側と同じく“Hamilton”と刻印があるので、
裏蓋だけ別作とかではないですね。
こういうケースの仕様は「セールスマンケース」と呼ばれます。
時計メーカーのセールスマンがお客さんにムーブメントの説明をする際、
いちいち裏蓋を開けるのは手間、それに何度も開け閉めして埃なんかが入ったら悪影響がある、
ということで、こうなったんでしょうかね。
おかげで自分も、いつでもなんの気兼ねもなくこの美しいムーブメントを眺めることができます。素晴らしい。
では続いてムーブメントに関して。
グレード950は、鉄道時計としての認証を受けている高級、高精度機になります。
23石仕様で、主要な歯車の軸(ホゾ)受けに穴石&受石を備え、それらの石はゴールドシャトンを使用したビス留めセッティングとなっています。
石は香箱の上下穴石、2&3&4番車の上下穴石、ガンギ車&アンクル&テンプは穴石と受石(伏石)、
アンクルの爪石2個とテンプの振り石、合わせて23石ですね。
シャトンも嵩の高い高級仕様。
全部のシャトンがこのタイプですね。
さらに仕様をあげていくと、
ジュエルドモーターバレル(回転香箱)、2~4番車がゴールドトレイン(金製歯車)、
チラネジ&ミーンタイムスクリュー付きのバイメタル切りテンプ、
ブレゲ巻き上げヒゲ、スワンネック緩急針、腎臓型ヒゲ持ち、ダブルローラー…
うむ、最高峰の名に恥じない仕様ですね。
こういった機能的な部分だけでなく、デザイン(ブリッジの切り方とかカッコ良い。好み)とか、パーツの仕上げ(歯車のスポークが円柱状に磨かれていたり)も手が込んでます。
まぁ、磨きはスイスをはじめとする欧州勢の高級機には敵わないですが…。
ずっ~と飽きずに眺めていられるなぁ。
現代でこれと同じ仕様の物を作ろうとしたら一体どうなるか。
どれだけの手間がかかるか分かりませんね…。
ちなみに、この950はオークションで入手後に某店でオーバーホールしてもらったのですが、日差2~3秒で稼働しています。
普段使いをするわけではないのでそこまで精度にこだわってはいないですけれども、やはり嬉しく、なんか誇らしい気分になりますw
鉄道時計の認証を受けるための条件は色々とあったのですが、その一つとして、“1週間の誤差が±30秒以内”というものがありました。楽にクリアですね。
製造から100年経った現代でもちゃんとオーバーホールができ、
しかも今だにその当時の厳しい条件を満たせる、すごいことだと思いませんか?
自分もできるだけ丁寧に扱って、メンテナンスもして、次の世代にまで引き継ぎたいなぁ、と思っています。